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象牙製精密彫刻寿老人

 

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平蔵の腹違いの妹・お園 

 

◆お園は、色白の大女で、左の頬の上に、少し雀斑（そばかす）の粒か散っている。

　その躰を地味な着物に包み、盲縞（めくらじま）の筒袖の半天を羽織り、紺の前かけに高下駄を履き、髪は無造作に自分の手で後ろへ巻き束ねたのみで、白粉も紅もつけぬ、色気も何もあったものではない。

　長谷川平蔵が、お園の店へあらわれたのは、久助が役宅へ来た翌日の午後であった。

　久助が紙にしたためた地図をたよりに、惣門を入った左側の松葉楼と下駄屋の間の細道へ入って行くと、早くも［三坪］の店の中は、客で一杯になっている。

 

　市中見廻りの、浪人姿の平蔵は、浅目（あさめ）の編笠をかぶり、店の前へ立ちどまった。

　戸は開け放してあるから、店の中の様子は丸見えだ。

　何と、お園は銜え煙管で酒の燗をしながら、若い客に向って、

「もう、それくらいにしておきな。お前みたいなやつがだらだらのんでいるから、いつまでも店の中が空（す）かないのだ。さっさと出て行け」

　怒鳴（どな）りつけている。

　これが、客に向っていう言葉か・・・・・。

（これはどうも、大変な妹があらわれたものだ）

　さすがの長谷川平蔵も、他ならぬ自分の腹違いの妹とあっては、いささか度胆をぬかれた。

 

　毒舌で客とわたり合いながら、きびきびと立ちはたらくお園を、平蔵は然（さ）りげなく見やった。

（ふうむ。さてこそ・・・・・）　

　平蔵の生母も、色が白く大柄な女であった。おそらく亡父は、その面影を偲（しの）び、生母の名前をお園につけたのであろう。

　まさに、色気などは微塵（みじん）もない三十女ではあるが、よくよく見ると、その面立（おもだ）ちは悪くない。

（亡き父上に、よう似（に）ている・・・・・）

　このことであった。

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　◇

 

　現場からも、さして遠くはない肴町（さかなまち）の十方寺（じつぽうじ）という寺院の和尚を、平蔵はよく知っている。

　この寺へ、平蔵はお園を担ぎ込んだ。

　平蔵は和尚に、

「通りがかって、この女の危急を救いましてな」

　とのみ語り、息を吹き返したお園も、何しろ十方寺の内にいるのだから、すべて納得をしたようだ。

　それにしても、お園は、酒をのみに来た平蔵に見おぼえがある。

　釣銭をとらずに外へ出た平蔵を追って出て、何か毒舌をふるおうとしたが、平蔵に気圧（けお）され、声が出なくなってしまった。

　その浪人が、夜も開けぬ暗闇の道を、自分と同じ方向へ歩いて来たのも妙なことではないか・・・・・。

 

　その、お園の不審（ふしん）を看（み）てとった平蔵が、

「わしは、火付盗賊改方の長谷川平蔵じゃ」

　と、名乗った。

　お園は、ぽかんと口を開けたまま、呆気にとられた。

　亡母や自分の相談に乗ってくれた久助が、むかし、長谷川家に奉公をしていたことを、お園は何度も耳にしていたからだ。

　ややあって、お園は、小屋へ帰るといい出したが、

「ならぬ。あの手合は何をするか知れたものではない。しばらくは、わしの役宅にいて様子を見るがよい。悪いようにはせぬ。そういたせ」

　きびしい中にも、平蔵の口調には、腹ちがいの妹へ対する慈愛（じあい）がにじみ出ている。

　何と、あのお園が、

「はい・・・・・」

　素直に、うなずいたではないか。　

（二十三）特別長編　炎の色　隠し子

 

 

 

◆お園は、平蔵と小柳に茶を出した。

　色白の、三十の処女（きむすめ）で体格は堂々たるお園が、侍女の髪を結いあげ、服装もしかるべきものとなって、左の頬（ほお）へ少し雀斑（そばかす）が散っている顔に薄化粧をほどこしていた。

　以前、居酒屋の女主人をしていたときは髪も自分の手で巻き束ね、筒袖の半天に紺の前かけ、銜（くわ）え煙管（ぎせる）で酒の燗（かん）をしながら、客に向って、

「いつまでも、だらだら酒をのむな。のんで、さっさと出て行け。後がつかえているんだよ」

　怒鳴りつけていたお園が、見よう見まねで侍女のはたらきをしているのを見ると、平蔵は笑いが込みあげてくるのだ。

 

　いつであったか、二人きりのときに、

「重い帯をしめて、苦しくはないか？」

　平蔵が尋ねると、お園は、

「こんな帯をしめるのも、いいものでございますね」

「髪も、面倒であろう？」

「このような髪を結ったこともございませんので・・・・・」

　たのしゅうございますと言いたげな、お園であった。

「お前が此処にいてくれるのは、奥も助かるし、わしも助かる。なれど、むりをしているのではないか。お前が別にしたいことがあるというなら相談に乗ろうではないか、どうじゃ？」

 

「お邪魔でなければ、いつまでも置いて下さいまし」

「ほんとうに、そうおもうのか？」

「はい」

　きっぱりとこたえる。

　通常の武家屋敷とはちがい、盗賊改方の役宅には微塵（みじん）も堅苦しさがない。

　お園が来てからは、江戸市中も平穏で、これといった事件もないが、長谷川平蔵の市中見廻りはやすむことがない。

　事件はなくとも、役宅の内はいつも緊張がみなぎっており、上から下までちからを合わせているのが、お園にもはっきりとわかる。

　一日一日と、お園は役宅での生活に慣（な）れ、慣れることによって、生き甲斐をおぼえるようになった。

（二十三）特別長編　炎の色　夜鴉の声　

 

◆男の肌を知らぬお園だが、小娘ではない。かつては根津の居酒屋で、荒くれ男どもを相手に、独りで店を切りまわしていた三十女であるから、それなりに肚（はら）が据（す）わっている。

　それでいて、男を知らぬ所為（せい）もあってか、長谷川平蔵がたわむれに、

「まるで、武者人形の金太郎じゃ」

　などと評した顔だちで、左頬の薄い雀斑（そばかす）さえ気にしなければ、五つ六つは若く見えた。

（二十三）特別長編　炎の色　囮　

 

 

 

◆平蔵はまじまじとお園の顔に見入った。

亡父・長谷川宣雄も、こうした図面を描くのがうまく、京都町奉行に就任したときも、みずから筆をとり、京都の大絵図を描き、居間の壁に掲げておいたことがある。女子は父親の血を濃く受けつぐとか・・・・・。

　亡父の隠し子であることを知らぬお園へ、このように、亡父の血がつたわっていることをおもうと、平蔵も何やら、居たたまれぬ気分になってくる。

（二十三）特別長編　炎の色　おまさとお園

 

 

◆お園が、腕をのばし、おむらの手首をつかんだ。

「さ、お立ち」

「いえ、あの・・・・・」
「立てといったら立て」

　お園は女ながらも腕力が強い。ひきずられるように立ちあがったおむらの襟をつかみ、引きまわすようにしておいて、廊下へ突き飛ばした。

（二十三）特別長編　炎の色　押し込みの夜

 

 

 

◆はじめて（男）を知ったお園が、伏目がちに、はじらいながら給仕をする、その襟足へ見る見る血の色がのぼってきた。雑炊を食べながら、小柳同心は、先刻までの取り調べの様子を洩らすともなく洩らしたが、「鎌鼬の七平衛」の名を耳にすると、お園の顔つきがあらたまり、坐り直したものである。　

（二十四）女密偵女賊

　　　　　　　　　　　　　　

 

 

◆いまは、同心・小柳安五郎の妻となった、お園が入って来て、

「あの、殿さま。お酒を運びましてもよろしゅうございましょうか？」

「奥（久栄）の様子は、どうじゃ？」

「先程、お医者さまが、お薬湯（やくとう）をさしあげまして、いま、よくお寝みでございます」

「お前がいてくれるので、奥も、わしも、まことに助かる。ありがとうよ」

　平蔵は、まだ、それと打ち明けぬ義妹のお園へ、にっこりと笑いかけた。

（二十四）ふたり五郎蔵

 

 

 

🔶平蔵は、停（と）めてあったもう一つの駕籠へ近づいて、

「園」

　声をかけると、駕籠の垂（た）れが内側から開いて、女の顔がのぞいた。これを見て、松永と粂八は瞠目（どうもく）した。

　女は、だれも知らぬが、平蔵の腹ちがいの妹で、いまは同心・小柳安五郎の妻となっているお園ではないか。

「浪人は、まだ、いるそうな。打ち合わせたとおり、たのむぞ」

「はい」

　うなずいたお園が垂れを下すと、駕籠は、お熊の茶店へ向って行く。

 

「おばさん、しばらくでした」

「まあ、こっちへおいでなさいよ。お茶を入れますから」

「ええ」

　うなずいた、お園が奥へ入って行くと、お熊の側へ行き、浪人には聞こえぬような低い声で、

「いま、長谷川様が、此処へお見えになります」

「えっ、銕つぁんが・・・・・・」

「そうしたら、長谷川様のおっしゃることに、口を合わせて下さい」

 

「む・・・・・・」

　お熊は、浪人のほうを見ようともせず、

「わかりましたよ」

　重（おも）おもしく、うなずいた。

「では、おばさん。これで」

　お園は、土間へ出てから、

「あ、そうそう、おまささんから、よろしくと、言（こと）づけをたのまれましたよ。明後日（あさって）の夕方、おばさんに会いに来るそうです」

　一瞬、浪人の眼が光った。

　お園は外へ出ると、待たせておいた駕籠へ乗り、立ち去った。

（二十四）特別長編　誘拐　お熊の茶店

 

 

 

 

�
�園に関わる人達

久助

・久助は、父とおすみの間の世話をしたばかりでなく、家出をしていたころの平蔵と父との間に立ち、いろいろと面倒をみてくれたものだ。

　その後も、おすみと久助との連絡は絶えなかった。　

（二十三）隠し子

 

 

お熊

・一方、お熊の茶店では、立ちあがって、外へ出て行きかけた浪人が、店の前で停まった町駕籠から、お園が出て、店へ入って来たので、またも腰を下した。

「まあ、お園さん」

「おばさん、しばらくでした」

（二十四）特別長編　誘拐　お熊の茶店

 

 

小柳安五郎

・盗賊改方の役宅では、同心・小柳安五郎と、お園との婚礼の仕度がととのえられつつあった。

　お園の顔は、興奮とよろこびで、照り輝いている。

（二十四）女密偵女賊

 

 

十方寺の和尚

・「これ女、長谷川様はな、あのような時刻にも諸方を見廻っておられるのじゃ。ほんに、お前は運のよい女じゃ」

　何も知らぬ和尚が、そういった。

（二十三）隠し子

 

 

おすみ

・おすみが病死したのは、お園が十八になった年の夏。

　三十両の金を、お園へわたし、あの世へ旅立ってしまった。　

（二十三）隠し子

 

 

長谷川宣雄

・亡父・長谷川宣雄は、上野の仁王門前にある料理屋（蓬莱屋）の座敷女中をしていた、おすみという女と馴染み、お園を産ませた。

　こうなると、四百石の旗本ともなれば、町人のように自由な逢い引きもできない。

　そこで宣雄は、おすみを浅草の山谷堀の近くの家に囲った。

（二十三）隠し子

 

 

長谷川平蔵

・男を知らぬ三十女は、意地ばかり強く張って、世の中の怖（おそ）れを知らぬ。いや怖れを感じても素直になれない。

「なるほど、久助。お前のいうとおりだ」

　長谷川平蔵は、根津権現の境内に待っていた久助のところへもどって来て、

「意地の張皮（はりかわ）が、かなり厚くなっているのう」

（二十三）隠し子

 

・お園は、平蔵と小柳に茶を出した。

　色白の、三十の処女（きむすめ）で体格は堂々たるお園が、侍女の髪を結いあげ、服装もしかるべきものとなって、左の頬（ほお）へ少し雀斑（そばかす）が散っている顔に薄化粧をほどこしていた。

　見よう見まねで侍女のはたらきをしているのを見ると、平蔵は笑いが込みあげてくるのだ。

（二十三）夜鴉の声

 

 

久栄

・「あれで父上も、隅におけぬお方であったな。うふ、ふふ・・・・・」

「殿様のほうは、大丈夫でございましょうな？」

（二十三）隠し子　

 

 

 

 

 

 

最近メールしてないな。

進路希望に、お笑い芸人って書いた澤部さんと「書かなかった」岩井くん。

書かなかったって言い回しするってことは、書きたかった→当時から夢はお笑い芸人。

素敵だー

岩井くんの神対応理論。

多分ずっとこういうことを考え続けていることが、生き方なんだな。

なんだこの三十路のおっさんが2人で可愛い可愛い言い合うラジオは。

記憶が飛んでついに異世界に召喚されたかと思う岩井くん。

いつかされるとは思ってたけど。

アフタートーク。

鉄扇高下駄煙管岩井くん。

似合いそうー