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第1 問1 捜査①
1 ①の撮影が法199条1項但書の「強制の処分」にあたるならば「特別の定」が必要になるので、まずは「強制の処分」にあたるかどうか、その意義が問題になる。
(1) この点、すでに法定されている強制処分はいずれも重要な権利を侵害するものであること、および、このような侵害は対象の承諾があれば生じないことから、「強制の処分」とは、①対象者の明示又は黙示の意思に反し②重要な利益を侵害するものをいう。
(2) ①意思
撮影をするにあたって対象の男の同意を得ていないし、撮影に気づけば男は反対するであろうから、対象者の黙示の意思に反している。
(3) ②利益
この撮影はビデオカメラという精密な機械的方法で、20秒間の長きにわたって連続し、しかも録画するものである。
撮影の対象としては、男が玄関のドアに向かってたち、その後歩く姿がうつっており、容ぼうもうつっているから、男の、みだりに容ぼうを撮影されない自由を侵害するものである。
もっとも、撮影された場所は事務所の外で公道であり、何人も、承諾なく容ぼうを視認されること自体は受忍せざるを得ない場所であり、その限度で、容ぼうを撮影されない合理的期待も減少し、プライバシー権の放棄がある。
したがって、重要な利益の侵害まではない。
(4) 強制処分ではない。
2 そうだとして、法197条1項本文の「取調」として適法か。対象のプライバシー侵害を伴う以上、この撮影も、捜査比例の原則(197条1項本文)に適合していなければならない。捜査の必要性と緊急性を考慮し具体的状況のもとで相当とされる限度でなければならない。
具体的には、①A事案の重大性①B嫌疑の濃厚生①C撮影によるべき必要性と②手段の侵害性が不均衡であってはならない。
(1) ①A事案重大
本件は、高齢者のVという弱者を対象とする、被害額は100万円と高額の、詐欺事件という重罪(刑法246条1項)の事件である。手口も、不要な修理を請け負わせる悪質なものだ。
男がついた嘘の内容からすれば、マニュアル等があって、同じ手口で連続して犯行している恐れがあり、また、今後も被害が増える可能性があった。
本件のような高齢者を騙す詐欺は、最近は社会問題になっており、治安上の観点から、捜査する必要が高い。
よって、事案は重大だ。
(2) ①B嫌疑
犯人がVに交付した領収書には本件事務所の住所が記載されていた。本件事務所はA工務店であるところ、犯人のもっていた工具箱にもA工務店のステッカーがあった。
このような本件事務所から出てきた中肉中背の男は、Vが「犯人は中肉中背」だったと述べているので犯人と体格も一致する。
よって、嫌疑は濃厚だった。
(3) ①C撮影する必要性
Vは、犯人の顔は覚えていないと述べている。たしかに、このことからすれば、男の顔を撮影しても、Vはその顔が犯人かどうかわからないのであるから、捜査の役に立たないとも見うる。
しかし、人の記憶の特性として、おぼえていないとは言っていても、実際に犯人の顔の動画を見れば「この男だった」と思い出す可能性はあり、撮影する必要性があると考える。
また、犯人は職業的に詐欺を働いている可能性があり、その場合、捜査に勘づけば逃げてしまうから、犯人に捜査を気取られないように捜査する必要があり、職務質問を行う等の手段によることはできないから、気付かれないように撮影する方法によるべき必要性が高かった。
(4) ②侵害性
20秒間の長きに渡り、機械的なビデオ撮影で精密に、あとに残る録画を行っていて、顔も写っており、このような撮影を無断で行われるのは通常は非常に不愉快なものである。
しかし、公道では顔を見られる事自体は覚悟しなければならないので、その限度では、侵害性が高いとまでは言えない。
(5) よって、①と②が不均衡ではなく、具体的状況下で相当な限度になっており、捜査比例の原則に適合し、「取調」として適法だ。
第2 問1 捜査②
1 この撮影が「強制の処分」なら「特別の定」が必要になるので、以下、上記○枚目○頁目以下の基準で強制処分性を判断する。
2 ①意思
Pは、ビデオカメラで工務店内を撮影することについて管理権者甲の許可を得ておらず、また、甲はこれを知れば反対すると考えられるから、対象者の黙示の意思に反している。
3 ②利益
(1) 重要な利益の侵害の有無の判斷について、憲法35条1項は、国家機関による、「住居」に準ずる私的領域への「侵入」に準ずる侵害からの自由を保障している。このような自由を侵害すれば、重要な利益の侵害になると考える。
(2) まず、本件では、向かいのマンションに立ち入って撮影しているので、その管理権の侵害が問題となるも、管理権者の管理人が同意しているため、この点、管理権の放棄があり、重要な利益の侵害まではない。
次に、工務店の中を撮影している点について、一般的に、事務所は、関係者以外の立ち入りを拒むものであり、公共的なスペースではなく、内部に立ち入られないこと、および、内部を見られないことについて、合理的な期待が存在する。
実際にも、本件事務所はブラインドカーテンを閉めて内部の視認を拒んでいるのであり、このような期待が存在する。
公道に面した窓はカーテンで塞がれ、事務所の両隣は建物があるため公道から内部を見ることもできず、内部を見られないことへの合理的期待があった。
本件撮影は採光用の小窓ごしに行われている。小窓からは内部を見ることができた。たしかに、このことから、小窓をつうじて中が見える以上、内部を見られないことへの期待がその限度で減少しているとみることもできなくはない。
しかし、まず、小窓は場所的に見て玄関の上にあり、通常は人の背丈より上にあって、そこからは、公道からでは、せいぜい内部の天井の一部を見上げることができる程度である。向かいのマンションの2階という、限られた場所に立つことで、内部が見えるにすぎない。向かいのマンションの2階に立ち入ることができるもの、通路か事務所を見てみようと思うものは限られている。このことからすれば、内部を見られないことへの合理的期待が減少していたとまで見れない。
また、窓は採光用のためについていたのであり、管理権者甲の意思でカーテンを下ろすことが出来ないものであった。プライバシーを自らの意思で放棄していない。
さらに、採光という機能のためについている以上、プライバシーを放棄する意図でつけているとただちにいえない。
このような事務所内を5秒の長きに渡り連続して機械的録画を行っている。
このことからすれば、「住居」に準ずる私的領域への「侵入」があったといえる。
重要な利益の侵害があった。
よって、「強制の処分」だ。
2 「特別の定め」が必要になるところ、218条1項の検証とは、捜査機関が五感の作用により物の性質を感得する強制処分であるところ、本件撮影もPという捜査機関が視覚で事務所内を感得する「検証」であり、「特別の定め」はある。
3 しかし、218条1項の「令状」を欠くので、同項違反だ。
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