遠くでイーグルスが歌っていた。福寿草マヨネーズ アメリカン
芙蓉(プヨン)に上客が付いた
初店で あの迂達赤の副隊長が見初めた
その噂は 市井から大護軍の耳へと入る
「チュンソク聞いたか」
「・・・はい」
「で どうなのだ」
「それが」
チュンソクは
後ろの方で控えるトルベに目をやり
『お前が話せ』と 目で合図する
トルベが頷き 大護軍の前に出た
「あの折の女人か?」
大護軍の問いは その昔
チュソクが諦めた医員のことだった
「いいえ」
堅物チュソクが心底惚れて思断った女人を
トルベ以外は誰も知らない
妓楼「牡丹閣」での
経緯(いきさつ)を話し出す
「枕を交わしもせず 金子(きんす)だけを・・・?」
「はい 初店の子でした」
「名は 何と言う」
「確か 芙蓉(プヨン)と」
ヨンはその夜
手裏房の酒楼へ マンボを尋ねた
「牡丹閣の芙蓉(プヨン)と 言う妓生を調べて欲しい」
「おや?」
顔をニヤつかせて探るような目をしたマンボに
「勘違いするな!」
ヨンは睨みを入れた
それから数日後 師淑から繋ぎが来た
「早かったな」
「ああ・・・」
面白くなさそうな顔をした 師淑の声が低い
その顔の時は良い報告が無い
「で 分かったのか」
話の先を促すように言葉を向ける
「ソネジョン(宣恵亭)の火事を覚えているか?」
「ああ」
忘れるものか 重臣二十四名が焼死した
徳城府院君キ・チョルと対抗して
現王を支えようとしていた人々だ
「その中の 一人
国子博士大菴(テアム) イ・セダル殿
の御息女 梨花(イファ)様だ」
「何だって!」
「慶昌君様を擁立しようとした謀反の輩
という汚名を着せられ両班実家は没落
娘は官婢となり 牡丹閣の妓生になった」
鬼剣を握り締める音がギシギシと鳴る
あれから
迂達赤副隊長 チュソク様は
お一人で此方へ足を運んで頂けるようになった
たまに来られては 静かにお酒を召し上がられて
「辛くはないか」と 聞いて下さり
そして いつの頃からか
必ず一枚 新しい衣を土産に
「妓生の纏う衣を着て欲しくない」 と
ぶっきらぼうな口ぶりで差し出される
包みを開くと品の良いチマとチョゴリが
誂えで入っていた
「どうして私の寸法をご存知なのですか」
その言葉に お酒の所為でなく顔を赤くして
「行首(ヘンス)に頼んで・・・・」と 言ったきり
私の顔から目を逸らして 杯の酒を飲み干された
その時々で チマとチョゴリの組み合わせの色は変わるが
蒲公英色や 山吹色 菜の花色と
黄色系の色が必ず使われていた
『チュソク様は 黄色がお好きなのですね』
あの日以来 夢は見なかった
芙蓉(プヨン)という名で 生きていても
妓生としては 半人前だった
芸事を一から習うには遅すぎて
唯一自慢 出来るものがあるとしたら
刺繍の腕前だった
両班の娘として 母様から
手取り教えて頂いたその腕は
刺した花から香りが立ち蝶も止まる
とまで言われる程だった
私に出来ることで お返しがしたい
店の下働きのアジョシに供を頼み
市井へと出掛けて
生地屋で額当てを作りたいと尋ねる
「これなどは如何でしょう」
店主が見せてくれた色は【碧色(へきしょく)】
強い青緑色は緑碧玉 (りょくへきぎょく)の色
「それに致します」
誠実なお人柄のチュソク様に似合いそうな色
喜んで頂けるかしら と心躍らせて
芙蓉(プヨン)は買い求めた
開京を守護する禁軍は
アンジェ率いる西の鷹揚軍と
ソンジュン率いる東の龍虎軍
そのソンジュンは
迂達赤副隊長チュソクの良きライバルであった
市井へ見回りを兼ねて出かけた折
足が止まった
「どちらのお嬢様だろう」
淡い黄色のチョゴリと上品な瑠璃紺のチマ
生地屋から出て来られたその女性は
白い磁器のような頬を薄桃色に染められ
お供の者が
「私がお持ちします」の声に 静かに頸を振られ
大事そうに抱えた包みにその頬を当てられていた
ソンジュンは
心を奪われ目が離せなくなった
「・・・・護軍」
部下の問いかけに
「ああ 何だ」
「いかがされましたか?」
「済まぬが あの方の住まいを調べてくれ」
護軍の瞳の先で微笑
女人を見て
「イェイ」
そのまま部下の一人が列を離れて行く
夕刻 部下より報告があった
「名は芙蓉(プヨン)
妓楼【牡丹閣】の妓生です」
「何だと? 間違いないか」
「イェイ・・・それに」
「何だ!」
心奪われた女人が妓生
その衝撃に言葉が荒くなる
「迂達赤副隊長 チュソク殿の専属らしく」
決まった旦那が居る
それがチュソクだというのか?
堅物でめったに妓楼になど行かず
隊で部下を連れて行く時も
自分は妓生など寄せ付けずに
一人 酒だけを楽しんでいるそんな男が
何故あの女人なのだ
市井で聞こえる下世話な噂話で
ソンジュンには チュソクが
手折ってはいけない花を 引き千切った様に聞こえ
胸の中に 黒い煙が渦巻く
その正体が悋気と言う名を付けているなど
ソンジュンはまだ 知る由も無かった
武臣の家に生まれた俺とチュソクは
幼少の頃より同じ剣の道場に通い
切磋琢磨し チュソクは迂達赤 俺は禁軍へと進んだ
悔しいが剣の腕は数段 チュソクが上だった
それでも王様より龍虎軍を率いる命を受けたのは
チュソクが甲組 組頭を拝命したのと同じで
チュソクが副隊長になった時には 俺は護軍になっていた
それでも あいつは俺の事など 気にもしない
護軍の拝命と同時に
幼い頃より親の決めた許婚と婚姻を結んだが
「よかったな」と 祝いの言葉をくれ
あいつは見合い話を悉(ことごと)く 断っていた
「お前は夫人を娶らないのか」
俺が問うと
「恋い慕う方が居る」
珍しく酔ったお前が 本音を吐いた
(恋い慕う・・・・)
そんな気持ちになった事など 今まで一度も無かった
今になって 初めて知った胸の痛み
「芙蓉(プヨン) そなたに逢いたい」
福寿草ならではの特長知ってますか~?♪
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クドわふたー 氷室憂希