ギャンブルを、ノンフィクションに。

　実家はこの三年の間に苦しい経営状態から何とか脱出する事が出来ていた。寛子の嫁ぎ先からの援助と二年前に大学を卒業して家業を手伝うようになった弟の晴治（せいじ）が呉服を使って現代的なアートの企画をしたり、モダンな小物類の制作といった色んなアイデアを出したのが功を奏して売り上げが上がり始めたのだ。昔ながらの呉服を重んじていた父は少し不満気味ではあったが背に腹は代えられないというのもあったのであろう、渋々晴治のアイデアを取り入れた。それでもそれが傾きかけた店を持ち直したという事実に内心、晴治の事を見直したというのはあるようで最近ではよく晴治と父は経営論について語り合っていた。ぶつかる事もよくあるようだと母は言っていたがお互い認めあっているところがあるので言い争っていても根っこのところは店を思っての事だから父親などはそれを何処か楽しんでいるように見えるそうだ。きっと父にとって晴治は頼もしい存在になってきているのだろう。

　実家に帰される事になった時、実家が今迄受けて来た援助はどうなるのだろう。いくら経営が上向きになってきたとはいえ、まだまだ返済を抱えながらでは苦しいのではないかと危惧したが義両親は寛子にそれは返さなくて良いと言った。寛子に対する今迄の慰謝料という事にしてくれと言われた。籍も入っていなかったわけだから寛子の頭に慰謝料を貰うという発想はなかったが義両親の申し出をありがたく受け入れた。確かに三年間という月日を無駄に過ごしてしまったという事実はあるのだ。それに勿論、口外する気など全くないがこれは夫の秘密に対する口止め料も含まれているのではないかと思った。

　時が経つにつれて寛子は駆け落ちした夫に対して腹立たしい気持ちと羨ましい思いが湧いた。夫は寛子が本当に何も傷付かないと思っていたのだろうか。夫婦の営みがなかった、戸籍も入っていなかった。確かに身体も戸籍も綺麗なままだ。何も傷付いていないと言われればそうなのかも知れない、夫を愛していたわけでもない、だから裏切られたという思いもない。それでも寛子はあの場所で生きて行こうと決めていたのだ、なのにそんな寛子の気持ちを夫は踏みにじったのだ。そしてそんな思いとは別にそれ程迄に誰かを好きになるというのはどのような思いなのだろうと思った。寛子は今迄一度も人をそんな風に好きになった事は無い。

　寛子が入籍されていなかった事を聞いた両親は流石に驚いた。夫はどうして婚姻届けを出さなかったのだろう、偶々忘れてしまっていただけなのだろうか等と色々と考えを巡らせたが結局答えは出ない。それでもこんな事になったのだから結果的には戸籍にも傷がつかなかったのは幸いだったという結論に落ち着いた。

　そうしてその三年後に寛子は再婚した。否、前の結婚では籍は入っていなかったのだから再婚という事にはならない。知り合いから持ち込まれたこの話に両親は前の結婚の事実を相手方に話さなかった。両親は知らない事だが実際、夫婦生活の営みもなかったのだから何もなかったと言っても過言ではないと寛子も思っていた。新しい夫は前の夫とは全然違うタイプで寛子より五歳も年下だった。身体つきもがっしりしていてスポーツマンだったがどちらかと言えば無口で会話はそれ程弾まなかった。彼は本音のところあまり結婚する気はなかったようだ。父親が倒れ、後一年持つかどうかという宣告を受け生きているうちにと息子の結婚相手を母親があちらこちらに頼んだのが巡り巡って寛子のところに舞い込んできたのだ。一年前に晴治も結婚して実家には晴治のお嫁さんが同居している。誰も何も言わなかったが出戻り小姑である寛子は何となく肩身が狭かった。会ってみるとそれほど悪くないように感じた。五歳も年下というのは少し気になったが先方の両親も母親の方が父親より年上らしくその事は全く気にしていないどころかむしろその方が良いと思っている節があるようだったので気に病む事は無いように思えた。いつか真に愛する人が現れてくれるのではなどという思いもあったがそんな人を待っていたらいつになるか分からない。ならば弟の嫁に気を使いながら実家に居座っているより結婚した方が良いように思えた。もう三十路も越してしまったという焦りもあった。ただ一つ危惧していたのはこの年まで男性経験がまるでない事である。結婚したら分かってしまう、男の人にとってそれはどうなのだろうという不安もあった。結婚を決意したもののわざわざそれを相手に伝えるというのも変な話だ。話が決まって式迄二ヶ月ほどあったが彼は寛子に手を出そうとはしなかった。一瞬、また前の夫の様に男色なのではとも思ったが、まさか二度もそんな相手に当たる可能性などないだろうと思った。初夜を迎えた夜に寛子はその事を打ち明けた。それまでどんな会話にもあまり興味を示さなかった彼が寛子の話に大いに興味を注がれたような顔をした。自分より五歳も年上の女がまさか男を知らないなどとは思ってもいなかったのであろう。彼は、寛子の上に覆い被さるとあっという間に身に付けているモノを剥いだ。夫婦になったのだから当たり前の営みである、しかし寛子にとっては未知の世界なのだ。良い年をしていたが少女の様に期待も不安もあった。一糸まとわぬ姿を見られていると思うとまるで全身が羞恥心の塊になってしまったかのように恥ずかしさでいっぱいになった。そんな寛子の気持ちはお構いなしに彼は寛子を荒々しく抱いた。それは寛子が夢に描いていたような優しいものではなくずっと生々しかった。彼が寛子の身体の中に入ってくるときには恐怖で悲鳴さえ上げそうになった。あまりの痛みに無意識にそこから逃げようとのけぞったががっしりした彼の腕に掴まれた身体は全く身動きできなかった。

「本当に初めてなんだ…」

彼は寛子の身体の中に入ったままそう囁いた。その事は彼の自尊心を大いに満足させたようであった。でも寛子はただただ早く終わる事を願った。こんな事はとても好きになれないとそう思った。だが最初の一週間、彼は毎夜のように寛子を求めた。男を知らない寛子を征服している様な気分だったのかも知れない。ただ、日が経つにつれてそれは目に見えて減って来た。でも寛子はその事にホッとしていた。それは寛子にとって苦痛でしかなかったから。

　新しい結婚生活が始まって寛子はこの三年、ついぞ思い出す事も無かった前の夫の事を時折、思い起こす事があった。歪な結婚生活だった。結局は入籍さえしていなかった。それなのに今の結婚生活より前の結婚生活の方が懐かしく思えてくるのだ。女将の仕事がなかなか覚えられなくて姑によく叱られた、それさえも今となっては楽しかったかのように思える。夫が仕事に出かけて家に一人残されるとそんな事を思い出して寛子は気がついたら涙を流している事がある。別に今の夫に酷い事をされているわけでもない、酷い事どころか自由にさせて貰っている。夫は寛子のする事に何も干渉してこない。何処かに習い事にでも行こうかと言っても反対もしない。友人と会って遅く帰ってきても文句も言わない。そう、ただ一緒に生活をしているだけなのだ。夫は寛子を愛しているわけではない、寛子も夫を愛してはいない。会話も通り一遍だ。前の夫とはあんな関係ではあったが毎日話はした。決して孤独ではなかった。

　だがそんな中で寛子は妊娠している事に気付いた。義両親はとても喜んでくれたが夫はそれ程喜んでいるようには見えなかった。それでも寛子は自分のお腹に宿ったまだ見ぬ子がとても愛おしく感じられた。まだ二ヶ月だというのに生まれてくるのが待ち遠しくて仕方が無かった。やっと孤独から解放されるように思えた。だがその思いも空しく子供は四ヶ月になる前に流産してしまった。寛子は悲しくて悲しくて毎日毎日泣いた。それが夫には鬱陶しかったのかそんな寛子を慰めてくれる事も無かった。そうして結婚して八ヶ月後に夫の父は他界した。父親が死んだら寛子はもう用済みになって離婚されるのではないかと思ったがそういう事も無かった。夫にとって寛子はいてもいなくてもどうでも良い存在なのではないかと思えた。実家を出たいが為に相手の事も良く知らないまま結婚なんてしてしまった罰だと寛子は思った。さりとて別れる確固たる理由もない。暴力を振るわれたわけでもない、ギャンブルに手を出しているわけでもない、何も理由もなく離婚など切り出せないと思った、何の理由もなく実家に帰る事など出来ないと。

 それが結婚六年目に差し掛かろうとしていた時だった。どうやら夫は浮気をしたようであった。相手は職場関係の女性だ。職場でそれが問題になって寛子の耳にも入って来た。寛子がその事を夫に尋ねると彼は悪びれる事もなく赤裸々に答えた。それに対して寛子は何の感情も沸かなかった。改めて愛がない事を感じた。それより寛子が思ったのはこれで漸く実家に帰る口実が出来たという事であった。こうして寛子の二度目の結婚生活は終わりを迎えた。

　　　＜壱百拾壱（百十一）へ続く＞

起業の基盤構築の専門家

西間木　裕見です。

幻の玄米ピザで話題の

ナホ吉さんの期間限定

時間限定のほたる庵

なかなか時間が取れなくて

もう行けないかな～と

なかば諦めていたら

ひょんなことで行けちゃいました。

午後からセミナーに参加してくれる

ブルーベリー農園「おかえりの丘」の

タミちゃんがランチをするから

一緒にいかがですか？って

誘ってくれたの。

時間より早めについて

目の前の足湯でくつろぐの図。

着物の裾をたくしあげてたら

「色っぽい」って声がかかりました。

ふだん、着物では

足首より上は見えないので

隠してあるところが見えちゃうと

艶めかしく思っちゃうのね。

栃木で秋澤いちご園をされている

秋澤さんもご一緒したんですよ。

秋澤さんが苺を使った

ロールケーキを奈穂さんに

持ってきたのね。

そこで私は神対応を見たわ！

奈穂さんはキッチンの切り盛りで

忙しい合間に

ロールケーキを食べてくれたのよ。

しかも秋澤さんに

料理人としてのアドバイスを

惜しみなく与えてくれたの。

これが奈穂さんファンが多いっていう

理由なんだろうなぁって思ったの。

自分が持っている知識を

出し惜しみすることなく

相手のために与える。

これって

できそうでできる人って

なかなか少ないのよ。

さすがだわ！

そうそう

ランチの玄米ドリアは

ボリュームたっぷり

とっても美味しかった。

あんまり楽しい時間だったから

ついつい話に夢中になっちゃったので

高速を安全運転で飛ばして

なんとか間に合わせたのは

さすが私！

福島県で起業している女性って

とってもパワフルで

これからが楽しみ。

私もお役に立てるのが

とっても嬉しいわ。

以前

ヴォイストレーニングの講師をしている

知人がいたんだけど

ある発言にびっくりしたのよね。

それは

「自分が持っている知識を

　全部教えてしまうと

　生徒さんが次に来てくれないから

　小出しにしています」

って言うの。

どう思う？

講師って知識が豊富なだけじゃなくて

その知識をどうやって実践に活かすか

っていうことも知っていないといけないと思うの。

だって知識なら

無料で手に入る時代だもの。

それでも知識だけでは

どうにもならないから

習いにいくわけでしょ。

そこで

どうやったら上手になれるか

そこを出し惜しみしたら

選ばれない講師になっちゃうのにねぇ。

奈穂さんの神対応を見ながら

そんなことを思い出しちゃった。

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本気で売上を上げたいと考えている

起業家・個人事業主のあなたに来て欲しい

起業の基盤構築の専門家　西間木裕見

が開催している。

起業でスムーズに売上を上げるための

仕組みを作るワークショップ型セミナー

賢くつくる！愛され、憧れられる起業家の基盤

「ビジネスメークアップ講座」

開催日程

川崎　　　

10月5日（金）　14時00分～17時00分

10月9日（火）　13時00分～16時00分

福島県須賀川　 

10月16日（火） 13時00分～16時00分

10月31日（水） 13時00分～16時00分

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統計学じゃなくて、しっかりと自分の脳の仕組みを知りたい！

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