彼女の作り方 キミがたのしいが、いちばんたのしい
草食系男子の彼女の作り方
草食系男子だなんて、酷いレッテル貼るもんだなぁといった感じですが、それに影響されて卑屈になってしまってはいけません。そういったタイプの男性でも、モテないなんて事は無い訳ですから、何の問題もないです。やってしまいがちな失敗パターンとしてリア充の彼女の作り方を真似してしまうというのがあります。例えば積極的に彼女をリードするとか面白いことを言うとか、その様な感じですが、このやり方は正直言って無理があります。
人間にはそれぞれに向き不向きという物があって、草食系男子がそういったやり方をするというのは極めて難しいです。普段どの様に喋っているかは分りませんが、その調子で喋るという事が重要になります。無理をすると直ぐに女の子は見破ってしまいますので、逆効果なのです。彼女の作り方にしても自分流のやり方というのを確立していただきたいです。他人のやり方をそっくりそのまま真似しているだけでは、上手くいく可能性は低いままです。
おそらく彼女を作るのは極めて難しいと考えていると思うのですが、実際はそうではなくて、誰にでもできる事です。ただし、そのやり方を間違えている限りは成果は挙がりません。その辺りの見極めをしっかりやっておいてください。
彼女の作り方の感想
翌日、翌々日と、判で押したような日常が続いた。そして現状、僕は新しい関係性0。大悟と、せいぜいその彼女以外とは交流が欠片もない。大悟の彼女って言っても、別クラスだし、二人の邪魔はできないから、実質一人だ。ついでに、バスケ部は実質入部1年目は2年でも実績がないなら球拾いだとバスケ部員の話を聞いてしまい、まあそうなるか、と現実を知った。でも僕はスポーツ一押しだった。文学部系は青春とは程遠い。土臭い青春が送りたいのだ僕は。
夕陽のオレンジが教室に時刻を知らせる。同時に下校のチャイム。ばらばらと生徒が廊下を飛び出していく。
5日目の放課後。事件も事故もイベントも吉報も、何もない平和な、平和すぎる、毎日。今日は金曜日。これでいいのかと自分に問う。こんなつもりじゃなかったはずだ。話が違う。湯柚花を切ったのは僕自身にとっても湯柚花にとってもその方がいくらかましだと、そう判断したからだ。ついでに、僕自身が高校生活をもっと華やかなものとして、もっと自分を高められる場として機能させたかった。汗臭い土臭い青春ならよりいい。だが土気色の高校生活は送りたくないと思った。何故かって、それは——。
数舜のフラッシュバックと、聞こえた声。走る昔の映像と——声。
叫び声。いや違うこれは、そう思ったとき、教室で何かがおきた。叫び声。現実の。教室の後ろ。聞き覚えがありすぎて咄嗟に振り返った。
「ゲロゲロっ」
カエルの声じゃない。カエルの鳴き真似。小さい生き物を見下ろすように前屈している女子数人ときゃあっというさっきの声。
声を出したのは湯柚花だが、どうにも空気が思っていたのと違う。3人くらいの女子が湯柚花を囲んで、何やら騒いでいるのだが、すごく邪気がなかった。
僕は帰る途中にスマホの通知がきたフリをして、彼女らの様子を見聞きした。
湯柚花の足元というか足の甲にカエルが乗っていた。綺麗な緑色のカエルだ。
「へっへ。これ私が飼ってるやつだよ。2匹いるんだけど、一匹なんか今日こっそり忍び込んだみたいでさ」
「ゆやちんそれなんか漫画みたい。インスマにあげようよ」
「インスマあ? まっきいちょい古っ。てっか湯柚花さん驚きすぎだし、これじゃ、我らがカエル連盟には入れませんなあ」
「カエル連盟? なになにそれ?私そんなのはいってたの? つかカエル飼ってるの私だけじゃないの!? みっきい、今度そっちのもみせてー」
可愛いチョップがカエルを持ってきた、ゆやという少女にヒットする。
「あほか。冗談や。両性類トリオ言われたいか? ゲテモノ女子いわれたいか? 今年の新流行語大賞になるぞ? 森ガールはいいけど、カエルガールは勘弁しろやわれ」
あはあは笑う3人と突然の、接触、に困惑している、湯柚花。
すると、忘れていたというように、湯柚花のカエルを取り除き、ゆやが彼女の肩を叩く。
「ねえさ、私達、いつも3人でいるんだけど、最近バトミントンはじめてね。一人面子が足りないんだよ。ツーマンセルに。で、お願いがあるんだけど」
まさか、本当に友達が、しかもこんなに早くできるとは、と僕が驚くのとゆやが、え、と驚くのと、湯柚花が驚いたような顔でこっちを凝視していたのはほぼ同時。
4人の視線が湯柚花経由で僕に集まる前に僕は大急ぎで背中を向けて教室を出た。
顔がにやけているのをもし万が一見られでもしていたら、たちまち、明日からの僕のあだ名は、女子の団欒をみながらにやける変態男になる。青春を取り戻す変態の苦悩。こんなキャッチコピーはいやだ。ごめんである。
そうして気付くと夕焼けをバックに帰路の途中にある河川敷で座り込んで、スマホ中毒気味の高校生をやっていた。気味っていうか僕の場合はガチだ。
「ああ、だめだ。なんか僕一人だけくすんでいる気がする」
声に出して、しまったと思い、うおおおおおと声にならぬ声。頭を押さえて悶絶する。
この青春はいわゆる、アミノ酸が倍加した納豆のように粘つく、すえた臭いのするだめなほうの青春だ。何かのサイトで読んだ、こうして青春ゾンビは量産される、その七つの方程式みたいな。
一つ、女子と交流がない。
一つ、そもそも友達がいない、すくない。
一つ、せっかくのチャンスを不意にする。
一つ、後悔の多い毎日を送っている。
一つ、毎日がルーティンワークで充実していない。
一つ、やっておけなければならないことをやらずにいる。
一つ、青春の有無にこだわりすぎる。
大まかにこの七つらしい。僕はもちろん、ほぼほぼ一致している。現状では、だ。これから変えていけばいい。
そのために青春255か条が一つ、河川敷で黄昏れる、をやっていたわけだが、意味わかんないし、空しいだけだった。横にツンデレ女子でもいれば違うのだろうか。
「ばっかばかしいわあ……かえるか……」
帰ろうとし矢先、女子の噂をしたらなんとやらで、女子がいた。今日の、放課後の湯柚花と、あの3人組だ。どうやら、本当に仲良くなって一緒に帰っているみたいだ。進行方向の先には経路の違う駅が二つあるから、そこで別れるのだろう。湯柚花がどこ住みかは不明である。僕らは幼馴染でも何でもない。赤の他人であるから当たり前だ。
そしてまた、帰って、何くれとなく明日が来て学校いって帰って、また——。
【僕はゾンビにはなりたくない】
頭の中に瞬間巡ったワード。限られた時間を電動のこぎりで削る脳内映像。
とくればもう僕みたいな直情的な馬鹿は突き進むのみである。たしかにあそこには湯柚花がいるけれど、別に湯柚花と関わりたくないわけじゃない。彼女は心も見た目もまあそれなりである。関わりたくなかったことが現状クローズしてるなら、空気的にお近づきになりやすいあの集団に取り入るメリットは十分ある。
いざ、突き進めわが青春。男の子ならやってみせろと、足に鞭打ち、頬をぶん殴り、眉間に拳を一突き——はさすがにやらないけれど。
「ねーお母さん、あそこに変な!」
「しっっ!」
べただが、これも青春255か条が一つ、変な人に勘違いされるジレンマである。
そして引き続き、青春255か条だ。8ビットコンピューターの上限数字に何の意味があるのかといえば、特になく、255も内容を考えるのがめんどくさいから実数は10くらいになると思うけれど、さておき。
「ねえ次はどこいく?」
ゆやが湯柚花の肩をがしっと組んで離す気もなさげだ。
「え……えと……家?」
「なるほど。帰るとカエルをかけてるわけか……まあだいぶブラブラしたしここらで解散しとくかい皆?」
「異存なし」
「右に同じ」
一人二人、伝染したように大きく伸びをしたあと、ゆやがかいさーんといった。しかし、そこで解散されては僕の出る幕が文字通りない。
焦らしプレイもとい実質30分ちょいの、河川敷から近くの駅ビル3階、雑貨売り場付近までのストーキング行為を誤魔化すように、あるものを手に近寄った。
青春255か条が一つ。女子の輪に割って入る。よくよく初めての接触かもしれない。
「ちょっと待った君達。お願いがあるんだけど聞いてもらってもいいかな?」
現在僕のルックは上ワイシャツ一枚にコートは脱いで、それをかばんに覆い隠すようにかけている。ちょっとした変装だ。
「誰……?」
誰、誰、と3人がはもる。まあここでこうきたら普通は、誰、だ。制服もわからないようにしているわけだし。しかし、これでいいのだ。
「じつはさ、見ればわかると思うんだけど」
いやいや、だから、誰、が来る前に塞がった両手をアピールした。
「友達とさ、4人で食おうと思って、買ったんだよ。しかしね、困ったことに、友達がなんか急に、ケラケラしだして、やっぱいーわー。お前全部食えよって……もったいないから……どう?」
無理なく輪に入るきっかけを作る。頭の中では僕天才節がカーニバルを催していたが失敗したらただの馬鹿だ。まあ仮に失敗しても湯柚花に近づいてる奴らだし、大丈夫だろうと——。
「え、アイス? いいの? なんかいっぱいあるよ?」
「おう」
4人だからな。僕の分を買わないのは節約もあるけど、手が足りなかったからだ。一つの手にソフトクリームのコーンの部分は二つが限界だった。
ちらちらと周りを見やり、反応を伺う女子達。唯一湯柚花だけが、【は?】って顔をしているが、別に悪い事してるわけじゃないしいいかと、楽観的な僕だ。
「あ……ありがと……君も大変だね」
と、ここまで普通だった。ところが、
「ところで、なんで? 君の分は? しかも偶然にも4つ」
無言。沈黙と苦笑い。しかし意味がわからない。さっき確かに僕含め4人の友達といったはずだ。変なところはない強いていうなら。
「そ、そうだね……偶然にも」
「偶然ってこわいね……」
こわいね偶然。こわいね僕。そう、いくら春先とはいえ、暖房の効いた駅ビル内で件のやり取りもあって葛藤もあったとして彼女たちを見つけるまでの間、まあ、よく溶けないよアイス。えらいよアイス。まあなんというか、あからさまというか、自分の浅はかさが祟ったというか。
「いただきます……あ、一ついいかな?」
どうやらとどめを放つつもりらしい。なにがくるか。僕はスマホをいじっていた。何故かって。プライドを守るためだ。
「ぶっちゃけナンパ的な感じ? いや……違ってたらごめんね」
同情されている。夏だったら脂汗事案。ダメだ。僕は、こういうのはだめなあれなんだよね。
「いやあ、はは。じゃ、ま、じゃーねん」
僕は4人と、ある時点から一切顔を見せず、横顔で対応している。いわゆる塩対応ってやつだ、違うけど。
あれだ、シャイボか。まあこれは引くのが賢明だろう。
結局、湯柚花と話すことも、その愉快な仲間とお近づきになることもなく、僕は全力で、家路についた。何がしたかったのかよくわからない一日だった。因みに本日の湯柚花は終始、お人形さんをやっていた。笑顔とも無表情ともつかない顔で、でも表面上は普通の女子って感じだ。当たり前だけど。このぶんなら、上手くやっていけるのかもしれない。ついでにいうと、プロバイダメールは着信があれ以来0のままだった。
翌週。月曜の朝は、いつもの変わり映えのしない朝だった。僕視点だと。
他視点だとどうだかはわからない。いつものように5時半に学校につき、門前でうろうろしていると用務員のおっちゃんが早すぎだろお前って、呆れた表情で語りながら開けてくれて、それから湯柚花がきて、3着目に大悟がきて、大悟と湯柚花が何を考えているのか僕は知らないし、その後にきたピープルはそれぞれ個々に世界を持っているのだろうと想像に難くない。この世界の主人公は75億人いる。一方そんな僕は僕で、今日も今日とてちっぽけな青春255か条が一つ。友達作りに励んでいたが、そもそも何をどう励めばいいのか。大悟と話すのは気楽で湯柚花に話しかけるのは、まあ現状受け身一択で、ピープルに話しかけるのは、知恵と勇気が必要だった。経験値不足である。ようは、方法がわからないと。
そして何気に、湯柚花が会話候補に加わっている事に、自分できめて自分で内心ほっとする自分がいた。
「自分何様的な、な」
「何がだ?」
僕の独り言に反応する大悟。小声だった。今は授業中だ。
「僕は僕のナルシーっぷりに反吐をだしながら、数式を解いていたんだ」
あの事件以降、新しく入った数学教師はまだ慣れない顔で教鞭をふるっている。
「おまーのはナルシーじゃない。ただの自己嫌悪だ。ナルシストって単語が嫌いなんだ。俺もおまーも。だから予防線を張っている。それを先に言っちまえばダメージがない。仮想批判厨への暴言対策をしている哀れな男だ。俺もおまーも」
「言いすぎじゃぼけ」
おまーのがよっぽど仮想批判なんちゃらよりひどいぞ。
何気ない小言で断罪されてしまったが、それでも地球は回る。授業は進む。
授業はのんべんだらりと過ぎていく。新学期早々だから簡単な復習的な内容が大半だから、聴いていてもいなくても問題はなかった。
「……との計算結果で、えーだから、月の公転周期と自転周期が同じであることにより人類は宇宙飛行士以外、月の裏側を見ることが叶わないんですね。はい、この中に将来、大成功して大金稼いで月に行くような人がでるかもしれませんね。そこで、私から皆さんに今年一年頑張っていくためのプレゼント。誰かの願いを一つ叶えてあげましょう。ジーニーじゃないから一つ、な。選考委員は先生だ。私こそがって手あげちゃう人がいたら、先行投資しちゃおうかな」
物理の授業中だった。教師がたまの息抜きに振るこの手の話の脱線はこのクラスにはわりと受けがよかった。とくに前年からのこの物理教師の話には冗談がなくガチであることが多い。
はいはいはーいという声を筆頭に、ノリ良く手を挙げたのは、5人。声の発信源で大悟とためをはる好青年含有率100%に加えイケイケ面の戸越陽。この数日でマドンナ的存在になった元クラスの美形女子、筒賀谷茜。大食漢で大食いのプロでもある例の吉田。
一見好青年風の人当りのいい色黒男子だが、裏で隠れて煙草と深夜徘徊をやっている隠れヤンキーの田辺悠一。八方美人で、人に嫌われるのが嫌いで金銭で友達を作っていたらいつのまにか結構な曲者になっていた、クラスの隠れ問題児今井涼香。
以上、陽キャ四天王プラスアルファが挙手していた。物理教師が、あかね、と顎をしゃくる。
「わたしさあ、将来会社起こしたいから、とーだい、いきたいんだよねとーだい。先生今度個別指導してよ」
「ハイ却下。不公平すぎんだろ。冗談であれ否であれ、新規性と実現性が薄い。はい、涼香」
「学校にペット持参許可してよ。猫連れてきたい。うちの猫自慢したい。可愛いからまじ。はい決まり」
「はい却下。ペットは病気持ってることがあるから、集団生活の場には相応しくないんだよ。
それにペットだって、ロボットじゃない。一つの意志を持った生き物だ。誰かを噛みつかない保証はない」
「ぶー。けちんぼ」
はいはい、次。吉田。と移行している最中にも今井涼香は愚痴っていた。持ってきてたやついたじゃん、と。あれはなんていうかノーカンだと思う僕だが、と思っているうちに吉田が終わっていた。
「はい、次。悠一」
「喫煙所」
「はい、次。陽」
直後だった。
ぴりっと耳朶が傷んだ。音の余韻の後で動揺の声が沸き起こる。ただし一様に、え、とかは、だ。
「まてやコラ」
そう、この言葉を言ったのだ。すげえ爆発するような声で。さすがの先生も言葉を失っている。というかエイリアンにでも遭遇したようにぎょっとした目で爆発男、否、ヤニ男をみていた。他の生徒も同上。
「なんやコラお前。人様に対して礼儀もしらねえのかよ。生徒以前に一人の他人に対する礼儀も知らねーやつが、何教師やってんだおい。表でろコラ。けじめつけてやるよ」
そういって、はいそうですかとついて言ったらむしろすごい。先生はまだ目ん玉をぎょろっとしていた。困っているのだ。リアクションとか色々。面子もある。声を殺しながら、お前、頭大丈夫かと、ぼやいた。声に力はなかった。直後、やにおが何かを教卓に投げた。黒板に当たって落ちる。
「はあ!? 何あんた? 喧嘩売ってんの? まあいいや、はは! 馬鹿が」
それがバウンドして落ちていたのは僕のすぐ傍だった。ただのボールペンだった。
「もういい……だ」
先生は殺した声の後、ぶつぶつと何かを言いプライドと恐怖の間で桶狭間の戦いをしながら、結論、逃げた。他の生徒を放棄して。
ばーか、とやにお。
僕は後ろの男の顔をみたくて仕方なかったが我慢した。そしてすぐに視線を見える範囲にナチュラルに飛ばした。
近くの席同士で耳打ちが短期流行していた。教師のいなくなった教室には何か別の空気というか活気が戻り始めている。
「まあ、仕方ないよね。あいつだし」
「ちょっとうざかったし、いいんじゃねの」
「皆、平和に、平和に、だよお」
直前のは、今井涼香だ。
「うん! いいこというね! 忘れよ! そうしよ! オーケー?」
ちっと舌打ちして、やにおがいつのまに立ち上がっていたのか、席に着く。つまりそれで、教師は逃げたのだ。
「あーうん。あとであの先公には俺がフォローいれてくっから、皆は、ゆっくりしててよ」
そう言って、クラス委員の戸越陽はクラスの調和を保つように、皆の為の俺をやっていた。
僕は思った。
ああ、また始まった。あるいはかもしれない。前兆があれば苦労はしない。強いて言うならこれが前兆だったのである。一度空気に入った亀裂は易々と何かを壊す。その、前触れ。
僕はそれでも後ろの男と同じポーカーフェイスで、黙々とその空気に同化した。
時計の秒針と短針が競争をしていた。二つは言うなれば亀とウサギだ。しかし短針の亀は物語のように長針のウサギに追いつけることは永遠にない。現実の亀もウサギに追いつけることはないが、。亀とウサギ。短針と長針。物語と現実。3者の関係はそれぞれ——。
「なんちゃって、やっぱり才能ないわ。無縁分類同士のこじ付け結束ができねえ」
自分で言っていて何語だよと、頭の中で文章構築の練習を
ながら腕時計の文字盤をガン見。図書室のソファーで寛いでいた。図書室だから読書と言いたいところだが、正確には気分だけだ。本は図書室常連である僕のマイフェイバリットゾーンの隣に積み上げられていた。ちょっとした勉強家気どりだ。青春255か条が一つ、本は若いうちに読め。勿論しつこいようだが、読んでいたのは本ではなく腕時計の文字盤だったけれど。やがてしめやかに訪れた気配に、僕は文字盤から目を離し、顔をあげた。
「呼んだ?」
「呼んでない」
ショートカットのサイドテール。引き結んだ口と仏頂面。春なのにブレザーを脱いで暑そうにしているが、本人の体温と反比例して彼女がくると場の温度が2度下がる。僕は頭の中で勝手に冷房ガールと呼んでいる。
「じゃあ、いつもの空耳か。空耳君って呼んでいい?」
「ごめん。呼んだ。だから、頼むからそこだけ大きな声で言うのやめてくれ。皆みてる」
ちらちらこっちを伺う視線が、何か無性に恥ずかしかった。わかったよ、とため息を漏らしながら、彼女が隣に座る。その横顔に何故か僕は懐かしさを覚えた。
杉山春香。大悟の彼女。それ以上でも以下でもない。
はずなのだが、完全に無縁というわけでもない。ご寡聞な時期には色々と世話にもなった。
主に、彼女の作り方について。結局未達成と玉砕と破局に終わったが、それなりに楽しませてもらった。
「妄想してるとこ悪いけど、呼んどいてだんまりは失礼。相談あるんでしょ。有料だけどね」
そう言って右手を出してくる。僕は適当に取ったお札を渡した。千円しかないけど。
「んーまいっか。まいど」
学校にばれたら停学確定だ。そのまま悪目立ちして、不良にも不登校にもなれない僕の高校時代は、いじめという青春とは不可逆な暗黒物質と一緒に死ぬまでの地獄の直行便となってしまうに違いない。なんて戯言はさておき、軽くなった財布を見て、自分の荷が減った事と関連付けで、また湯柚花を思い出す。
【彼女とは心中したくなかったんだよ】
ふと、頭に回帰した言葉を一蹴し、現実に戻って彼女とは別の彼女を見る。
眠そうに眼をこすっていた。
早く早くと、何か急いでいるらしい。そういえば。
「杉山さ、たしかバイトしてたっけ? 週いくつ?」
「5。掛け持ち、寝不足。それがどしたあ?」
「なら考えがある。今日の相談内容」
いつも、こうして相談している。内容はもちろん、彼女の作り方のイロハ、だけではなく、僕自身の校内評価に関して、である。
「バイトの面接時の注意点とか教えてくれないか?」
「は……え? いつものあれじゃなく? ってか、え? バイトやんの?」
「いや、もうできるし年齢的に」
「いや、そうじゃなく、いつも聞いてんのは何? あれに金払うんならこっちもコストとリスクかかるからかねとってるけど、そんな友達の相談レベルのことに時給1000円はまずいっしょ」
そもそも、彼女、杉山春香は何者なのかだが、彼女の一日をストーキングしていれば誰でもわかることだ。そこらじゅうに味方がいて会話相手がいて、程々に友達がいて、友達と知り合いでは仲のいい知り合いが多い、校内ピラミッドの上よりの中層に位置する、人脈モンスター。いわゆるこの学校の情報屋、女子高生スーパーコネクターである。加えてバイト戦士で守銭奴でもあるが嫌味のない守銭奴だった。睡眠不足と過労死が心配される彼女はそんな心配など弾き飛ばす万年変わらぬポーカーフェイスで淡々と呼吸するように全てをこなしている。僕にはもったいない友達だった。いや、友達ってのは嘘だ。友達の彼女は友達とは言わない。知り合いという。
「あーうん。でも」
僕の言うのを遮って彼女が、
「まあ待ちなよ。もう色々情報集めてきたから、今回は無料でおしえたげる。大悟の親友だし」
断る雰囲気を逸したのでとりあえず黙って続きを待つ。
「んでね、まず、Eの毒蛇女とハゲタカ達だけど、台風の目? だっけ。なんかやたら静かみたいで、あんたらの噂はしてないし、また変な噂も広めてないし、こっちにも入ってこないよ。まあ。あの日からふた月は経つし、さすがに校長にまで目付けられたら面倒だったんじゃないかな。というわけで先週一週間の報告まとめね。あんたの噂はちょっとづつ、書き換えが成功していってるから。あいつのは無理だけど、あんたは、ただちょっかいだしてただけだし、大衆(生徒)さんたちはそんなに意識してないみたい。トータルで、悪い噂は6つ。別クラスで1.Eで2。んで……あんたんとこで3。たった6人だよ。まあ私の聞けた範囲では、だから、実際には3倍いると思ってよね。それでもたかが18人。屁みたいな数でしょ。安心しなよ」
恩に着るとは言えなかった。正直、地味に痛い数字だし、聞きたくなかったから、あえて話題を逸らしたのに、聞かされて虫の居所はいいとはいえない。
「んで、あいつだけど……そっちはまあいいか。最近よく屋上にでるらしいね。なんでかしらないけど、何考えてんのか」
幽霊みたいに言っているが、杉山は湯柚花をあまりよく思っていない。理由は謎だ。
「あー、あんがと。でもとりあえず、今日はもうこれでいいや。サンキュな。んじゃ」
え、と杉山が滅多にない不思議そうな顔を向けてきたときには、図書室のドアを閉めていた。
青春255か条うんちゃら、な気分でもなかった僕は、図書室からでると、真っ先に屋上に向かった。
そして、目算通り出会った。青春キラーがそこにいた。昨日今日の話ではなく、一昨日もその前もここ数日はずっと、彼女は錆びついた無機物のように屋上にいる。杉山に聞く前から目撃情報として知っていた。保健室の代わりなのか。何故そいつが最近いつもそこにいるのか、僕には意味がよくわからなかった。普通の人が好奇心でくるのは何となくわかるが、何故よりによってそいつが、わざわざそこにくるのか、僕にはわからなかった。
「また、きた」
屋上にきたのは久々だ。多分、また人がきたって意味だろう。
うーんと顎に手を当てて、頭を一生懸命に巡らせている。
「わかった。きみもここが好きなんだ?」
違った。自分に対して言っていたらしい。とするとまた出くわしたって意味だろう。どうやら嫌われてるらしい。さておき、なんでわざわざ授業中にここにきたのか聞かれたら、変な回答しか言えないだろう。彼女が心配——ではない、強いて言うなら死人を出さないでおくべく超お節介な見回りというか。思春期の年頃はすぐ死に急ぐ習性があると、御上が言っていた。その静かな警告を——。違う。今日のは本当にただの気まぐれだ。
「好きじゃないけど、ほらここ自殺スポットだろ。誰か死んでんじゃねーかって。もし死ぬならドキュメンタリーでも撮ってあげないと浮かばれないだろ」
驚いた顔でこっちを見た後、ややあってその顔が綻んだ。
「いいね。じゃ私でよければやってくれないかな、ドキュメンタリー」
今日は空が青い。快晴だ。鳥も飛んでいる。スズメの声も軽やかだ。
いやいや。
「ごめん、冗談だけど、今のは僕が悪かった」
「そうだね。私もごめん。じゃあ、そういうことで……」
フェンスに沿って歩いていく。その先は、故障中の網があって、めくれるようになっている——というのは教師は知らないのでいつまでもここは出禁にならない。
意味がわからなくて、冗談抜きでぽかんと口を開けたまま固まる。
「え……?」
どんどんよくなってるはずだった。湯柚花周りの環境は。
「いやさ、私、いまからちょっと魔法使いになるから、みててほしいんだよね」
そう言って、掃除用具を——そういえば箒を持っている。今までは持っていなかった。今日に限って持っていた。何故だ。
「冗談はいいけどさ。湯柚花、あの3人とは仲良くやってんだろ? どうなの、実際。結構楽しい?」
今度は湯柚花がぽかんとする番だったが、僕も同じくぽかんとする。いやなんでだよって。
湯柚花は無視して屋上の網の端まで行って、端の緩くなったところをめくって、それをさすがに僕がとめる。
「うぜーって。いい加減にしろ」
「今ここに箒があります。飛べます。でも君が掴んでるから無理だね。離して」
「いやうぜーから」
「離して!」
女の金切り声くらいで離しはしないけど、本当に面倒くさくて離してやろうかと思った。
「あ、先生!」
え、と振り向いた隙に手が緩んだ。掴んでいた指の力が、そこに体重が加われば——。
さすがに——無理。
「って——! おいっっっ——! おいっっ——!?」
——消えた。ぱっとマジックのように、嘘のように感触が消えた。
「は……?」
ない。いない。どこにも。刹那の消失。見下ろすと、飛んだ湯柚花がいた。地面に叩きつけられてぐしゃぐしゃに——なっていたら今頃は、僕も正気じゃなかったろう。
いた。飛んだ場所がたまたま、良かったのか、辺鄙の木の枝に引っかかって身動きを止めていた。辺鄙なところに生えているから辺鄙の木と、たったいま僕の命名だ。それどころじゃないが。
「おい! おい!」
反応がない、と思ったらもぞもぞし始め、しばらくしてまた落ちた。
あ、という言葉の後に花壇の上に落ちた。
校庭では体育中の一部の生徒達が悲鳴をあげていた。
昼間の悲劇。陽だまりの狂気。そして——。
一方で僕は彼女の身を案じるよりも早く、顔を見られる前に全身全霊でその場から退散した。顔を見られたら、また、僕のせいになる。僕のせいじゃなくても僕のせいになる。僕は文章は得意だが、口は苦手だ。そうなったら僕の青春が終わる。僕の人生がおわる。僕が終わる。それだけはごめんだ。
青春キラー許すまじ。やっぱり関わらなければよかった。ってのは半分冗談で、僕は真っ先に階段を駆け下りその場から逃げ、彼女の元へ駆けた。
そろそろ彼女の作り方が本気を出すようです
こんにちは。
恋愛コンサルタントの田中翔馬です。
いきなりですが、
数の子、好きですか?笑
カズノコ…お正月のおせち料理なんかに入っているあれです。
自分は今年の元旦になるまで嫌いでした。
味が嫌いとかではありません。
食わず嫌いだったんです。
子供の頃に食べて、
「にがって、まずっ💦」となったんだと思います。
ずっと避けてきました。
ただ、今年の元旦、ちょうど1ケ月前におせち料理に入っていたので、
気まぐれで食べてみたんですね。
すると…
超うまい…
え…
なにこれ…
数の子ってこんな上手いの…???
俺、子供の頃からずっと避けてきたんだけど…
(´・ω・`)
ってなりました(笑)
まぁ、大人になって味覚が変わったんでしょうね。
それに気付かずマズイという印象を引きずって避け続けてきました。
すごくもったいないことをしていたようです。
まぁ、そんなしょうもない話なのですが^^;
ただ、こういう食わず嫌いって色々なことにあると思います。
例えば私は恋愛コンサルタントとして、
恋愛初心者の男性に彼女の作り方を教えています。
モテない男性は基本的に出会いがありません。
なぜ、出会いがないか?
と言えば
その理由の1つは女性との共通点に乏しいからです。
女性が好きな話題?
そんなのさっぱりわからない。
興味もない
そういう感じなんですね。
女性が好きなことに疎く話しかける口実もないので出会いが増えないのです。
だから、私が直接コンサルティングをするときにはいつも、
女性比率が高い趣味を始めることを提案しています。
例えば料理とか始めたら、
それだけで出会いをも増やしやすくなりますし、
女性が好きなロックバンドのファンになってファン活動をするだけで、
同じファンの女性と仲良くなれたりします。
ジャニーズ好きになった日にはめちゃくちゃ女性と知り合えますよ(笑)
そういうことがキッカケになって出会いが加速するんですね。
ただ、多くの男性は、
「え〜、そんなのめんどくさいです…
もっと手っ取り早く女性と出会える方法はないんですか?」
と考えたりします^^;
女性が好きなことになんて興味がないからですね。
でも、これも私の数の子と同じで(スケールが小さいですが)
食わず嫌いである可能性が高いです。
実際、そういう趣味を始めてみると、
予想以上に楽しかったりします。
「え、世の中にはこんな楽しいことがあったんだ…」
と気付けたりします。
それってとても素敵なことだと思うんです。
人生の幅が広がるから。
楽しいことが増えるから。
休日に楽しめる趣味が増えるというのは
すごく素敵なことですよね。
もちろん女性との出会いも増えるので
一石二鳥です。
でも、多くの場合やってもいないのに、
「そういうのはちょっと…」
と抵抗を示してしまいがちです。
“食わず嫌い”を発動してしまいます。
私は食べ物に関しても、
趣味に関してもこれまで色々と食わず嫌いでした。
本当に損をしてきたと後悔しています。
もちろん、
やってみたけど好きになれない…
ということであれば仕方ないです。
でも、やってもいないのに
「これは違うな…」
「自分には合わないな…」
と思うのは非常にもったいないです。
人生、長いようで短いです。
あとから知って後悔しないように、
お互い、食わず嫌いだけはやめておきましょう。
そんなことを思った今日この頃です(笑)
恋愛初心者の男性向けに彼女の作り方ノウハウを配信しています。
インターネットを使った簡単な方法です。
↓ ↓ ↓
彼女の作り方 関連ツイート
たいあり